2026年7月28日に熊本を襲った最大震度7の地震が、大きな被害を出している。地震で亡くなった方々に心からの哀悼を表したい。
現地では、救命活動、水道や電気の復旧、避難所の開設、水や食料など人道支援の送付などが懸命に行われている。連日35度の危険な酷暑が続く中、現場で救助活動、支援活動に奮闘されている方々に心から敬意を表したい。
その上でこの稿では、熊本県内の被災地での支援の急ピッチの拡充に加えて、8月2日(日)から熊本市では40度という歴史上例を見ない酷暑を迎える今回の被災については、被災者の方が望まれる場合、県外に退避する支援を早急に実施することを提言したい。
つまり、エアコンが使えず、水に自由にアクセスできない状況でこのかつて経験のない酷暑を迎えることは、明らかに命の危険があると考えるからである。(熊本の史上最高温度は38度と報道されていた。)
この稿を書いている7月31日午前9時19分現在、まだ八代市や氷川町など多くの被災地で、電気も水道も止まったままである。電気については、7月31日の夕方にも回復する可能性があると報道されているが、水道については、浄水場や水道管そのものが大きく破壊されており、復旧の見通しが立たないと報道されている。
電気のないところに避難所を作って、電源車を持ち込んでも、冷房を使えるようにすることは限界がある。また電気が通っても、エアコンが壊れている家も多く、水へのアクセスがない中で、どこまでこの酷暑に耐えられるか、私は非常に懸念している。その意味で、電気や水道が生きている隣県に避難所を作り、バスや電車で退避してもらう選択肢を考えるべき時期に来ていると考える。
2011年3月11日の東日本大震災の時、私は一月後の4月9日に最初にいわき市にボランテイアとしていわき市に入った。その時、双葉郡、つまり福島第一原発周辺地域の方が、数万人単位でいわき市の体育館など避難所で過ごされており、多くの方から話を伺った。でもいわき市は、水道も電気にも十分アクセスできた。同じ体育館で過ごすにしても、電気や水道があるのとないのでは、全く状況が異なる。少なくとも水道や電気がある避難所に退避して頂く支援を、国は早急に始めるべきだ。
具体的には、以下の方法が考えられる。
①九州各地(福岡、佐賀、長崎、大分、宮崎、鹿児島)などからバスを熊本に派遣する。そして、お年寄りや小さいお子さん、その家族などをまずは優先して、「その方が希望された場合」他県に退避してもらう。退避先は、被災地から近いが、電気や水道に十分アクセスできる鹿児島や宮崎、長崎などが考えられる。しかし熊本から福岡もバスで2時間ちょっとであり、福岡の方がより受け入れ可能な人数も多く、福岡にも避難所を作る。
②九州各地から出すバスに被災者の方に乗ってもらい、「希望する方」について、熊本駅までお連れし、2026年7月31日(金)に再開された熊本駅から福岡駅までの「九州新幹線」にお乗せする。そのチケット代は国費で負担する。被災者の希望にあわせて、身寄りが佐賀や福岡などにある方は、自ら行先を選ぶ。佐賀や福岡などに身寄りなどがない方については、佐賀県や福岡県の小中学校などに多くの避難所を作り、そちらに入って頂く。
「そんなに多くのバスがあるのか」という疑問の声もあると思うが、福岡県貸切バス協会の方に7月31日(金)午前に電話で聞いたところ、「福岡県内だけで、130社のバス会社があり、少なくみても千数百台のバスはあると推定」されるということだった。だいたい、その5-7割くらいが50人乗りの大型バスであり、残りが10-20人ほどの小型バスだということだ。
また、実際に救援隊などを熊本に送るために、国からの要請を受けて熊本に入っているバスもあるということで、道路は繋がっている。そして、国が費用を出し、国から要請があれば、当然、多くのバス会社が協力する、既に予約済みだった観光なども、キャンセル代を国が払えば、当然、被災者の支援のためにバスを運行することは十分あり得る、と話して下さっていた。
50人乗りのバスを400台用意すれば、一日で2万人退避可能だ。また小型バスは、被災地でまだ、この酷暑の中、家を出て避難所にも行けず、家に閉じこもっている人に呼びかけ、バスに乗ってもらう上でも大きな役割を果たせる。小型バスについては、まず熊本駅にお連れし、九州新幹線に乗れる方には乗ってもらい、乗れない方は大型バスで、近隣の県の避難所や、体調によっては病院にお連れすることもできる。
まずは命を繋ぐことが最も大事だ。このように、被災地に電気も水道も通らず、かつ空前の酷暑になる。つまり地震と猛暑の二重災害に熊本の人たちは遭われている。この方々の命を守るためには、希望される方については、県外退避を用意することは、国の責務でもあるのではないかと私は思っている。
暑さを避けるために、ずっと車中泊をされている方がいると聞くが、足を延ばせない状況が続けば、エコノミー症候群で亡くなる方が出てくるリスクも高くなる。とにかく、通常でも危険な暑さを熊本は今後迎える。今日の夜からでも遅くない。数百台のバスを福岡や近隣の県から雇い、熊本に派遣し、被災者の方で希望する方を、県外に退避してもらうべきだ。最初の数泊は、隣県のホテルに泊まってもらうこともできる。その間に、隣県での避難所を設置していくこともできる。
私は、戦争をどう停戦に持ち込むかという和平調停や、停戦後の持続的な平和作りである平和構築を専門にしているが、もう一つの専門分野が「人間の安全保障」である。2017年には「人間の安全保障と平和構築」(日本評論社)という本も編著した経験がある。人間の安全保障の最大の眼目は、戦争や災害の非常時に、「人の命や尊厳を守る」ことである。私が、東日本大震災の直後から、いわき市に通って避難民の話を伺ったり、洋上風力発電など復興の事業に関わり、今も、いわき市・浪江町へのスタディツアーを続けているのは、そんな理由である。
繰り返しになるが、熊本は、8月1日から40度という、これまで経験したことのない猛暑に突入する。その前に、「希望される方については」県外への退避も可能にする支援を早急に始めるべきだ。
もちろん、それは、現地の電気や水道の復旧や、避難所の開設、人道物資を届けることなどを、緩めていいということでは全くない。被災者全員の県外退避は、時間もかかるし、地元に残ることを選ばれる方も相当数いると考えられる。現地での支援の強化を加速させつつ、「県外退避」のオプションを、被災地の方に与える支援を一刻も早く開始すべきだと考える。
命さえ繋ぐことができれば、またいずれインフラが復旧した後に、地元に戻って生活する選択肢は常にある。今はまず、熊本の人たちが命を繋ぐことができる状況を作るために、日本政府は全ての力を注ぐべきだと思う。こうした非常時こそ、国が役割を果たすべき時だと私は確信する。