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HIGASHI Daisaku (東 大作 上智大学教授)

2026年3月19日:イラン戦争 日本は徹底した「面従腹背」で米国に対応を

高市首相の訪米と米国への対応

2026年2月28日に、米国とイスラエルがイランに対して一方的に軍事攻撃をかけ、この戦争が始まった。そして日本時間の3月20日未明、日本の高市首相と米国のトランプ大統領による首脳会談が予定されている。

 今回の会談でも、そして今後についても、私は、米国からイランとの戦争について、どんな協力を求められても、「面従腹背」を貫き、米国の対イラン戦争の協力をしないことが、日本の国益にとって決定的に重要だと考えている。

 「面従腹背」とは、表面的には従っているように見えて、心の中では反対し、要求にも応えないことである。

 以前、小説家の故遠藤周作氏がテレビで、「面従腹背というのは、日本人的で嫌いだったのですが、最近は、これは日本人の良さ、知恵でもあると思うようになりました」と語っていたのを記憶している。上司など強い相手の理不尽な要求に対して、真っ向から反抗しなくても、実際には従わないことは、日本社会においてよくあることだ。

 米国という世界最大の軍事・経済大国が、大義なき戦争に突入した。日本や韓国、中国、NATOの国々に対してもホルムズ海峡を守るために艦船を出すべきだとトランプ政権は主張している。しかし3月17日になって、「もう米国だけで十分だ。誰の援助も必要ない。NATOは、米国に協力しないことに、いずれ後悔するだろう」と言い放った。これは、多くの国が水面下では、「ホルムズ海峡の通行を可能にするために艦船を送ることなどできない」と米国に伝えており、表立ってそれが露わになって恥をかく前に、自ら「もう必要ない」と発言したと推察される。

 そんな中、高市首相がトランプ大統領と会談する。日々、発言が変わるトランプ氏からどんな要求が出されるか分からないが、何を要求されても「ごめんなさい、ここでは決められません。日本人全員の命や暮らしがかかっているんです。一度持ち帰って検討します」と言って帰ってくるべきだと思う。その後も、「日本の法律から見ても、また実効性を考えても、ホルムズ海峡に日本の自衛隊を出して、イランと戦争することはできない」と、やんわりと言い続けるしかないと考える。実際、米国・イスラエルとイランが凄まじい攻撃の応酬を続ける中で、日本の自衛隊が出動しても、急にホルムズ海峡が安全になって石油やガスが自由に通過できるようになることはあり得ない。米国という世界最大の軍事大国にすらできないことを、日本にできるはずがない。

米国とイラン、双方に公平な立場を取り、平和を求め続ける

第二次世界大戦の惨禍を経て、人類は国連憲章を作り、相手から攻撃を受けた場合の「自衛のための戦争」か、「国連安保理が決議した場合」のみ、戦争することを認めている。ただ自衛のための戦争に関しては、「Imminent(差し迫った脅威)」があると客観的な証拠を世界に示せる場合のみ、攻撃される前にも自衛のための戦争は認められるとする考え方が現在は一般的である。(このImminentな脅威に対する攻撃であるPreemptive attack と、将来脅威になるに違いないという漠然とした主張で実施するPreventive attack(予防攻撃) の違いについては、2025年6月にイスラエルがイランに先制攻撃した際に詳しく解説したブログ「イスラエルがイランを攻撃した大義「先制攻撃」、「体制転覆」とそのリスク」を参照)

 トランプ大統領が、開戦後、「イランの核兵器による差し迫った(imminentな)脅威があったから攻撃した」と、いくつもの理由の一つとして主張しているのは、上を意識しているからである。しかしトランプ政権中枢からも、これと異なる主張が出てきている。アメリカの国家テロ対策センターのトップで所長の、ジョー・ケント氏は、3月17日、「これ以上は良心の呵責に耐えられない」と辞任した。Xにもポストした辞任を説明する文章の中でケント氏は、「イランは米国にとって、差し迫った(imminent)脅威ではない。この戦争は、イスラエルの圧力と、米国の強力なロビーによって始まったのは明らかだ」と明言した。

 ケント氏は、以前、米特殊部隊にも属し、中東で11もの作戦に従事したと報道されている。またケント氏の妻は、2019年にシリアにおける自爆攻撃で亡くなった。ケント氏は、その意味でも「米国第一主義」を掲げ、「米国はもう外国での不要な戦争に手を出すべきでない」と訴え続けていたトランプ大統領の熱烈な支持者だった。そのケント氏が、「イランは、差し迫った脅威を米国に与えていなかった」と明言して辞任したことは、非常に大きな意味を持っている。

 翌3月18日、米国の情報局のトップである、ギャバード国家情報長官も、米国議会で証言、それにあたって提出した書類の中で、「2025年6月の米国のイラン攻撃で、イランの核濃縮プログラムは完全に破壊された。その後もイランは、核濃縮能力を再構築する努力は行っていない」と明示している。つまり米国の情報局トップも、トランプ大統領が掲げる「イランの核兵器による差し迫った脅威があった」という説明に反した資料を提出している。

 以上を見ても、常識から考えても、米国・イスラエルのイランへの攻撃に、国際的な大義がないことは明らかである。他方、日本にとって、米国は唯一の同盟国であり、真っ向から「あなた方がやっていることは国際法違反です」と批判できない現実があることは、著者も一定の理解はしている。でも「この戦争を支持する」と言わない姿勢を堅持することは、極めて重要なのである。

 他方、イランが周辺諸国に攻撃していることを、「批難する」のも日本政府としては賢明でないと考える。つまりイランを非難した瞬間に、「では最初の攻撃をしかけた米国・イスラエルの攻撃は批難しないのか」という反論が、日本国内でも国際的にもすぐに出てしまうからだ。この主張を続けると、「結局、日本も欧米の多くの国々と同じように二重基準で、ものを言う国なのか」と中東やアフリカ、南アメリカを含む、いわゆる「新興国・途上国」の国々に思われるようになる。それは、せっかくこれまで中東外交においては、米国と一線を画し、公平な立場を取る国として支持されてきた日本の信頼を損ねることになる。

 ではどうすべきか。とにかく「この戦争が続けば世界経済にも日本経済にも破局的な影響がでる。とにかく一刻も早く停戦を実現し、事態を沈静化させ、世界経済の安定を取り戻すために、日本は米国、イスラエル、イランという紛争当事国の双方に向かい、ひたすら停戦に向けて説得を続けている」と国内的にも国際的にも発信を続け、実際にそのための努力を水面下で懸命に続けることだと私は思う。

 日本が何を言っても、トランプ大統領は変わらない、という声もあるだろう。しかしこれまでのトランプ氏の行動を見ていると、「グリーンランドを所有する」と主張してNATO諸国から一斉に反発を受けて、最近は言わなくなっているように、世界の多くの国から批判されれば、急に姿勢を転じることはままある。今回、米国の同盟国である欧州の国々の殆どが、米国・イスラエルのイラン攻撃を支持せず、艦船の派遣も含めて戦争に参加しない状況がある中で、世界中から「とにかく『完全勝利した』と宣言してもいいから、戦争を停止して欲しい。そうしないと世界中の経済が破綻する」という声がトランプ氏に届けば、彼のいわゆる感情(Feeling)が、戦争終結に踏み切ることに影響する可能性は十分あると私は見ている。

 今後、米国・イスラエルとイランの戦争が完全に終結し、仮に米国とイランの双方から、日本に対して「ホルムズ海峡の安全のために、機雷の除去をして欲しい」と要請があれば、それを日本が行うことはありうると私は考える。しかし肝心なのは、イランと米国の双方から要請を受けるような状況になった場合に限って、世界の安全と経済のために実施することだ。

つまり、日本はこの戦争について、始めた責任がある米国を直接批難することが仮に難しいとしても、「支持する」ことは絶対に避け、米国とイランの双方に公正な立場を取ることが重要だ。それが、中東に石油の95%近くを依存する日本の国益を守る意味でも決定的だと私は考えている。

カタールから学ぶこと

開戦直後に共同通信からご依頼があり、翌3月1日に全国に配信された寄稿(全国の地方紙で掲載)でも述べたように、私は2月6日からカタールで、外務副大臣と懇談したり、カタール大学や、ハマダ・ビン・ハリファ大学、紛争・人道研究センターなど多くの場所で講演をさせて頂き、ガザの持続的停戦や、世界中で和平調停を行っているカタールの状況を調査する機会に恵まれた。また2月13日から19日までヨルダンで、ヨルダンの外務副大臣と意見交換したり、ヨルダン大学戦略研究所などでも講演し、ヨルダンにいる多くの専門家と中東の平和について対話して、2月21日に日本に帰国した。そのわずか一週間後にこの戦争が始まった。

 カタールでは、誰と会っても「なぜカタールは、米国とタリバン、イスラエルとハマス、そして米国とイランなど、世界中で和平調停を続けているのか」を聞いて回った。その答えは、日本にとっても非常に示唆的だった。以下が、私が聞いた主な理由である。

①カタールは、サウジアラビアやイランなど、中東の大国を隣国にし、また紛争の多い中東地域に位置する極めて小さな国(人口は約3百万人)である。だからこそ、「様々な戦争や軍事紛争の仲介をして戦争を終わらせるために努力する国」というブランド(イメージ)を世界から得ることは、それだけカタールの安全保障にも繋がるという考えが、国の指導者から一般の国民まで浸透している。

②またカタールの憲法にも、「和平調停はカタール外交の基軸だ」と明記されている。その意味では制度化(institutionalized)されており、政府全体として取り組む体制ができている。

③米国とタリバンの和平合意(2020年2月)や、イスラエルとハマスの停戦合意(2025年10月)を始め、和平調停で多くの実績を上げる中で、世界中から調停をして欲しいという要請が来るようになり、和平調停を行う機運(Momentum)が高まっている。

④こういった機運の高まりの中で、カタールの若者で外務省に入ったり、研究者を目指す人は「和平調停に携わりたいから」という理由でこの分野に入ってくる人が多くなっている。その意味では、カタールのアイデンティティ(Identity) にもなり始めている。

という話を、多くの政府要人からも専門家から伺った。

 またカタール政府で和平調停を指揮するトップの一人は、米国とイランの交渉について「イランの核兵器開発を止め、その代わりにイランへの経済制裁を解除していく」という議題と、「イランのミサイルの保持や、海外の抵抗組織への支援」に関する議題は分けて交渉することで、なんとか軍事的衝突を防ぎたい、と熱意をもって語っていた。残念ながら、戦争は勃発してしまったが、今もカタールは、水面下で米国とイランが「一斉のドン」で、停戦する機会を探り続けていると思われる。実際、昨年2025年のイスラエルとイランの12日間戦争の際も、米国が最後、イランの核施設への攻撃を行った直後、米国がカタールを通じてイランに停戦を求め、米国もイスラエルを説得して停戦が実現した。あのタイミングを逃せば、終わりの見えない報復合戦になるという見通しを、当時のトランプ大統領はまだ持っていたと思われる。

なぜこの戦争は始まったのか

このように、水面下でイランと米国の間を仲介していたカタールや、米国とイランの核協議を表舞台で仲介していたオマーンなど中東諸国が、なんとか米国とイランの戦争を避けようと尽力していたにもかかわらず、なぜこの戦争は始めったしまったのか。

 私が先ほど紹介した、3月17日に辞任した国家テロ対策センター所長のケント氏が「この戦争は、イスラエルの圧力と、米国の強力なロビーによって始まったのは明らかだ」と明言していることは、極めて示唆的だと思う。

 実際、2015年の米国とイランが、「イラン核合意」(イギリス、フランス、ドイツ、中国、ロシアも署名)で合意した際には、イスラエルだけでなく、サウジやUAEを始め湾岸の多くの国がこれに反対した。イラン核合意の骨子である「イランは核兵器開発を停止し、国際原子力機関(IAEA)の査察も全面的に受け入れる。その代わり、イランへの経済制裁を解除する」という内容について、当時、シリアのアサド政権、イエメンのフーシー派、レバノンのヒズボラなどを支援し、優位な立場にあったイランが、制裁解除によってより大きな影響力を持つことを、ライバル国であるサウジアラビアを筆頭に湾岸諸国が非常に警戒していたからだ。

 その後2015年のイラン核合意を受け、イランは、核合意で認められていた3.67%の核濃縮を遵守し続け、それをIAEAも毎年確認していた(なお3.67%は、核不拡散体制に入っている国に認められた核濃縮度であり、イラン核合意もそれに沿っていた)。にもかかわらず、第一次トランプ政権が2018年に、イギリスやフランス、ドイツ、ロシアや中国が強烈に反対するなか、イラン核合意から一方的に離脱。逆にイランに対して、すさまじい経済制裁を課し始めた。そのためイラン経済は極めて苦境に陥った。(そしてその対抗措置として、イランは核濃縮のレベルを徐々に上げ始めたが、まだイランが核兵器を保有していないことは、米国情報局も認めている。)

 イランの中東での影響力も落ち始め、逆に産油国として大きな経済発展を遂げ自身も深めたサウジアラビアなど湾岸諸国は、イランを脅威としてあまり感じなくなった。そして、2023年3月、イランがイエメンのフーシー派への軍事支援を止めることを条件に、サウジアラビアとイランは国交を回復し和解したのである。その後、ガザの停戦や復興のためのアラブ連盟の会合やイスラム協力機構のサミットなどには、イランもサウジやカタール、UAEなどと共に参加するようになり、関係はかなり改善していた。

 それもあって、第二次トランプ政権になってから、サウジアラビアやカタールなど湾岸諸国も、トランプ大統領に対し、「イランと再び核合意をすることで、中東の紛争要因を取り除いて欲しい」と強く要請するようになった。つまり、「イランと米国の核合意」に反対するのは、イランを宿命の敵と考えるイスラエルだけになったのである。実際、2025年6月には、6回目の米国とイランの交渉が始まる直前にイスラエルがイランへの軍事攻撃を単独で開始し、協議はいったん停止された。

 そして、2026年2月から再びオマーンの仲介で始まった米国とイランの核協議には、イランも積極的に合意に向けて動き、2月26日にジュネーブで3回目の協議が行われた際には、詳細はまだ不明なものの、イランは制裁解除と引き換えに2015年の核合意と同じで、かつ核不拡散体制の枠内で認められているウランの濃縮度を3.67%以下に下げ、貯蔵していた濃縮ウランの国外持ち出しも提案していたと多くのメディアで報じられている。

 2月26日の協議後、仲介したオマーンの外相は「核協議に大きな進展があった」と発表、3月2日にもIAEAも加わり、実務者協議を始めることが決まっていた。それを待たずに米国とイスラエルがイランに空爆を始めたことに、オマーンの外相は「落胆している。活発で真剣な交渉が損なわれた」とXに怒りの投稿をした。

 そして、開戦後の3月2日、ルビオ国務長官はメディアの会見で、「米国は、イスラエルがイランを攻撃することを知っており、その場合、イランが中東の米国の基地などに攻撃することは確実だったので、その前に攻撃した」と発言した。これに対し米国メディアは、「米国はイスラエルの攻撃に引きずり込まれたのか」と騒然となった。その後、トランプ大統領はこれを否定したが、このルビオ国務長官の発言や、辞任したケント元テロ対策支援センター所長の話は見事に一致している。

 実際、イスラエルのネタニヤフ首相は、2月28日に、イランのハメネイ最高指導者や幹部が集まる予定があることをトランプ大統領に事前に伝え、「ここで攻撃できれば一網打尽にできる」と攻撃を促したと報じられている。ルビオ米国務長官の(思わず話してしまったと推察される)会見の内容から考えて、ネタニヤフ首相が、「米国がやらなくてもイスラエル単独でも攻撃は始める。でもできれば、一緒に行動したい」とトランプ大統領を説得したことは、推測可能である。

もちろん、本当にどんな経緯があったかは、歴史が明らかにすることで、現在の段階で確定的なことは分からない。ただ大事なことは、この米国とイランの戦争は、ネタニヤフ政権を除けば、世界中の全ての国が望んでいなかった戦争であるということを認識することである。そして、一刻も早い停戦と、中東の平和を取り戻すために、世界全体で努力し、日本もその一翼を担うことである。

「民族自決」の理念とその強靭さ

これまで、第二次世界大戦後の、日本の平和と繁栄は、日米同盟がその基盤にあったことは事実であり、いきなりこれを180度転換することは難しい。しかし、第二次世界大戦後、曲がりなりにも世界の国々が守ってきた「国家主権の尊重」、「国境線の尊重」、そしてその国のことは、その国の人々が決めるという「民族自決権の尊重」という、最も基本的な国際的ルールを作った米国自体が、この基本ルールを顧みなくなっていることは、日本としては、現実として認識せざるを得ない。

 またトランプ政権が、上のような基本ルールを顧みず、自らの軍事力、つまり「力による平和」を築こうとしても、それがうまくいくかは全く見通せない。私は、倫理論ではなく、現実に、それはかなり難しいと考えている。

 なぜなら、「その国のことはその国の人々が決める」という民族自決の理念は、実際に多くの国々を植民地支配から解放し、独立を達成させた、現実上の力を持った規範だからである。そして、この民族自決に挑戦し、軍事力で無理やり(傀儡国家だった)南ベトナムを維持しようと、8年近く膨大な地上軍を送り込み北ベトナムへの爆撃(いわゆる北爆)を続け、300万人ものベトナム人が犠牲になる形で、その「ベトナム統一と自由・独立」という北ベトナムの意思を、米国は挫こうとしたが、それは結局、完全に失敗に終わったのである。米国は1973年に撤退し、1975年に北ベトナムは南ベトナムを統一、ベトナム戦争は終結した。(皮肉にもそのベトナムは現在、資本主義経済の下、急激な経済発展を遂げ、米国の対中抑止の重要なパートナーとなっている。)

 その後、ソ連がアフガニスタンに1979年に侵攻し、同じく傀儡政府を守ろうとしたが、10年もの泥沼の戦いのあと、結局、1989年に撤退を余儀なくされた。その後、米国が、2001年にアフガニスタンに軍事侵攻し、当時のタリバン政権を倒し、体制転換と民主化によって新たな国づくりに乗り出したが、20年で200兆円とも言われる経費と、25万人を超えるアフガン人死者、2千人を超える米国兵士の犠牲を出した末、米国はアフガンから撤退し、2021年にタリバンがアフガン全土を奪還した。また2003年に米国は、イラクにも軍事侵攻し、フセイン政権を打倒し、民主化による新たな国づくりを始めたが、2005年や2014年などをピークに何度もすさまじい内戦にイラクは突入、50万人とも言われるイラク人や4千人を超える米国兵が犠牲となった。そしてイラクは、シーア派が多数派を占めることもあり、軍事侵攻後、(米国が敵視する)イランに極めて近い政府が樹立されるようになった。

また2011年には米国主導のNATO軍がリビアに軍事侵攻したが、その後、リビアも血みどろの内戦に入り、今もリビアは東西に実行支配地域が分かれたままである。つまり、軍事侵攻を始めた大国の思惑通りには現実は進まないのである。「民族自決」というコンセプトが世界全体にいきわたった今、外国が軍事力によってある国を思うがままに支配しようとしても、実際には難しいことを上の歴史は証明している。(これについては、今年5月に出版される次の英語の拙著 “Mediation and Peacebuilding in an Age of Division” (『分断の時代における和平調停と平和構築』(Routledge 2026)で詳しく述べている。)

 今回も米国とイスラエルがイランに軍事侵攻し、体制転覆を目指しても、イランの多くの人たちは、米軍やイスラエル軍に抵抗し、何年にもわたる血みどろの内戦になるであろう。またイランは、ホルムズ海峡を、ボートや機雷など、比較的や安価な方法で、通行不能にすることは、長期的にも可能と考えられる。その意味では、この戦争が長期化することは、イランにとっても、多くの米国人にとっても、日本にとっても、世界全体にとっても、極めて破局的な悪影響をもたらす戦争である。

 その意味では、一刻も早く、この「狂気の戦争」を終わらせることは、日本の国益にとっても、世界全体の地球益にとっても極めて重要である。日本は、幸い、米国ともイランともコミュニケーションする関係を維持している。上のような情勢も冷静に把握しつつ、とにかく双方に対して、早い段階で戦争を停止するよう、訴え続けることが大事だ。ネタニヤフ政権は今年選挙があり、戦争を続けることは国内政治的にもメリットがあるのは事実だが、米国が戦争を停止して、イスラエル単独で戦争行為を続けることは、イスラエル国内での反発が強まる可能性が高く、長期にわたってイスラエル単独で戦争を継続することは難しいと考えられる。その意味でも、まずは、米国が戦争終結を決意し、仲介国のオマーンやイランを通じて、一斉のドンで、停戦する事態に持ち込むことが最優先だ。(もちろん、可能であればイスラエルも一緒に停戦に入れれば、それが最もよい終結方法である。)

日本の中長期的な戦略

この米国・イスラエルとイラン戦争を一刻も早く終わらせるべく、まだ日本を信頼してくれている中東諸国とも連携して、米国とイラン双方とも対話と外交努力を続けることは、まずは日本にとって最も重要な仕事になるだろう。それは、日本経済を維持する上でも決定的なことである。
 その上で、中期的には米国のトランプ政権が未来永劫続くわけではないということを認識し、第二次世界大戦後、基本的に多くの国が守ってきたルールが維持される形での国際秩序が保たれるよう、(トランプ政権の間は積極的な支持がなくても)、欧州や「新興国・途上国」と連携して努力していくことが肝要だ。日本の世界全体に占めるGDPの割合は既に4%ほどに下がっており、軍事力や経済力で、他の国を支配するような力はない。その意味では、健全なルールに基づいて貿易や投資、そして安全が守られる世界の方が、日本の今後の発展にとってもメリットがあることは間違いない。
 そしてより長期的には、経済の分野でも安全保障の分野でも、これまでの「日米同盟一本足打法」から、広角打法に切り替えていくことが重要と考える。実際、現在の、日本の貿易額において、米国が占める割合は15%、中国が約22%、東南アジア諸国連合(ASEAN)が、米国と同程度の15%である。1960年代から日本がODAなどでインフラ支援や制度支援、人材育成などをしてきたASEAN諸国は日本の貿易相手国としても、また子会社や工場を作る投資先としても、米国と同じレベルの重要さを既に持っている。そして、こうしたASEAN諸国がとても親日的であることは、日本にとって貴重な財産である。
 また2040年には、中東、アフリカ、南アメリカ、そしてこの東南アジアなど「新興国・途上国(グローバル・サウス)」と言われる地域全体のGNPが、米国のGNPや、中国のGNPを上回ると、野村総合研究所を含め、多くのシンクタンクが試算している。

 日本はこれまで、平和国家として、こうした「新興国・途上国」に、民主主義や人権を押し付けるのではなく、「自立と安定」に向けた支援を誠実に続けてきた。それが、日本に対する評価や尊敬になっていることを、私はこれまで、アフガニスタンやサウジアラビア、イラク、ヨルダン、カタールなど中東諸国、エチオピア、ケニア、南スーダンなどアフリカ諸国に講演や調査で行くたびに、肌で実感してきた。
 こうした「新興国・途上国」があと15年くらいで、米国や中国も追い抜くほどの経済力を持つことが確実な今、こうした地域の国々への「自立と安定」に向けた支援を維持・拡大しつつ、貿易、投資、観光なども拡大し、日本の富を増やしていくことが、長期的には日本にとって極めて重要であろう。そして、一国では解決できないグローバル課題(軍事紛争や地球温暖化、干ばつや感染症など)の解決のために、日本が、国家や国際機関、NGOsや民間企業、専門家などを繋ぎ、共に解決に向けた世界的な対話の促進者(私は、これを「グローバル・ファシリテーター」と呼んでいる)として、世界に貢献できれば、それは日本の味方の国を増やすことに繋がり、味方が多い国を攻撃することは難しく、日本の防衛力を高めることにも繋がる。これは先に記述した、カタールの「平和を達成する国としてのブランドを得ることは、カタールの安全保障が高まる」という理念とも一致する。そしてそれは、日本人がこれから、さらに多くの国々と貿易や投資を通じて富を増やし豊かになるためにも、不可欠の道だと私は確信している。