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HIGASHI Daisaku

2025年4月2日:米トランプ政権によるウクライナ戦争とガザ紛争の和平調停とその課題

今日は、トランプ政権が発足して急激に動き出している、ウクライナ戦争終結に向けた和平調停と、ガザ紛争の停戦交渉について考えたいと思います。

ウクライナ戦争:米国による和平調停と世界のジレンマ

ウクライナ戦争については、まず2月中旬、トランプ大統領とプーチン大統領の電話会談、アメリカの国務長官とロシア外務大臣による会談が相次いで行われ、ウクライナ戦争の早期停戦について議論がされました。

国際社会は、今、非常に大きなジレンマを抱えていると思います。一方で、アメリカのバイデン政権の下では、西側諸国はとにかくウクライナを軍事支援するという一点ばりで、この戦争をどう終わらせるかというビジョンを持てませんでした。

2024年8月からはウクライナ軍もロシア領に侵攻し、ロシア本土へのミサイル攻撃やドローン攻撃も激しくなりました。他方ロシアによるウクライナ領へのミサイル攻撃も一層激化し、戦争自体はエスカレートする一方でした。

またロシアは、ウクライナにおける占領地域を少しずつ拡大していました。しかしバイデン政権もまたそれと同盟を組む西側諸国も、「とにかくウクライナを応援して、ウクライナを勝利させる」という方針を打ち出すのみで、いったい何を獲得することをウクライナの勝利と定義し、何を目標に戦いを応援し続けるのか、方針を明示できずにいたのは事実だと思います。

私は2023年2月に出した拙著「ウクライナ戦争をどう終わらせるか~和平調停の限界と可能性」(岩波書店)という本の中で、戦争勃発から1か月後にトルコのイスタンブールで行われたウクライナとロシアの直接交渉で、ウクライナ側が提示した4条件、つまり①2022年2月24日にロシアが侵攻を開始したラインまでロシア軍が撤退、②クリミア半島や東部のロシア派が実効支配していた地域については、終戦後、15年かけて領土交渉する、③ウクライナはNATO(北大西洋条約機構)に入らない、④その代りロシアも入ったP5などによる新たな安全保障の枠組みを作る、という内容が、ウクライナ戦争終結に向けた一つの土台になるのではと書いていました。

実際、2022年3月末の交渉において、交渉団レベルでは、上の4条件で基本的に合意されていたと後に伝えられています。しかし4月以降、ブチャの民間人殺害などが発覚し、和平交渉が途絶えてから今年に入るまで、交渉による停戦への動きは全くなく、ウクライナへの軍事支援をどこまで拡大するかが、西側の議論の中心でした。

その意味ではトランプ大統領が、「とにかくこの戦争を終わらせる」と動き出したことについては、ウクライナ国内でも、アメリカ国内でも、また国際社会全体としても、これを歓迎する声は一定数あったと思います。

他方でトランプ政権は、「戦争終結させるためには、ロシアが軍事侵攻によって占領したウクライナ領土の一部をロシアに正式に割譲することもやむを得ない」という立場を明確に打ち出しています。

ただ、これを認める形で停戦合意が締結され、ウクライナの領土の一部がロシア領土として併合されてしまえば、第二次世界大戦以降、国際社会全体で、一応守り続けてきた基本的なルール、つまり「国境線を尊重し、勝手に軍事力で他国に攻め込んで自分の領土にはできない」というルールを破ることに繋がってしまいます。

そうなれば、世界中で、ある国が、他国に侵略して領土を拡大することを、国際社会として批判できなくなります。それはある意味、19世紀的な「掟なきジャングルの時代」に戻ってしまう危険があるのです。

つまり、一方でウクライナ戦争を終わらせることは極めて重要だけども、他方でトランプ政権の方針に沿って停戦や和平が実現した場合、この世界の根本的なルールが機能しなくなってしまう可能性がある。このジレンマに私たちは直面していると考えています。

ジレンマを克服するために

このジレンマを克服するためには、どうすればよいのか。トランプ大統領は昨年の大統領選の時から、「自分が大統領になったらウクライナ戦争を一刻も早く終わらせる」と公約していたこともあり、アメリカによるウクライナ戦争の停戦に向けた動きそのものは、なかなか止められないと思います。

私自身は、仮に実効支配ラインで停戦することになっても、あくまでそれは停戦ラインであって、「ロシアが2022年以降の軍事侵攻で占領した領土を、正式にロシア領にすることは認められない」という立場を、国際社会全体として堅持することが大事だと思っています。

つまり「あくまで停戦ラインであって、ロシアによる正式な領土割譲は認めない」と、日本も含め国際社会のメンバーが、アメリカやロシアに対して求め続けることが、世界の基本的なルールを守るために肝要だと考えます。

仮に実効支配ラインで停戦した場合、ロシアが占領している地域については、停戦後の外交交渉によって返還を求めていき、それが返還されるまでは、少なくともヨーロッパ諸国や日本は、ロシアへの経済制裁を維持すべきと考えています。

現実には、プーチン大統領が政権維持している間は、占領地の返還は難しいかも知れません。でも、ソ連がアフガニスタンに侵攻して撤退するまで10年かかりました。

ですからウクライナについても、たとえ何十年かかっても、勝手に軍事侵攻して領土を増やす前例にはしないよう、ウクライナと共に、国際社会全体で外交努力を続けることが大事だと考えています。

アメリカがウクライナとロシアを和平調停するリスク

当初、アメリカがロシアとだけ和平協議を行っているという批判がありました。ただ、アメリカはウクライナ側とも協議自体はしており、ロシアとウクライナ間のいわゆる「シャトル外交」をしようとしています。

戦争終結のための和平交渉においては、紛争当事者が直接、第三者の仲介のもと対面で顔をあわせられる場合もありますが、あまりに双方の憎しみがひどく、最初の段階では対面交渉ができない場合もあります。

ハマスとイスラエルの交渉などは、直接には両者が会えないので、カタールやエジプトがその間をシャトル外交してきましたし、そのこと自体は批判されていないと思います。今回、ウクライナ戦争については、トランプ大統領が、ロシアとウクライナの間を自ら和平調停して、交渉を進めようとしています。

ただアメリカは、二つの方針を持ってこの和平調停に臨んでいます。それは2月12日に、アメリカのヘグセス国防長官が、ブリュッセルのNATO本部でのウクライナ支援会合で発言した内容に端的に表れています。

そこでヘグセス国防長官は、①ウクライナが2014年以前の領土を回復することと、②ウクライナがNATOに入ることは、「いずれも現実的でない」と、明言したのです。

つまり領土については、2014年にロシアがクリミア半島を併合しましたが、その前のラインまでウクライナが回復することは難しいということです。またウクライナが長年加盟を求めているNATOへの加盟も難しいという方針を、トランプ政権は明示しています。

ウクライナがNATOに入らないことについては、ロシアが2022年3月末のウクライナとロシアの和平交渉でもロシア側が一番こだわった点であり、NATO加盟を認める場合、停戦そのものができないという判断が、トランプ大統領やその中枢にあるのだと思います。

ただ問題は、トランプ大統領とロシアが、「ウクライナのNATO不加盟」や、「実効支配ラインでの停戦」、「ロシアへの経済制裁の解除」などで合意して、それをウクライナ側に、軍事援助の停止もちらつかせて無理やり受け入れさせようとすると、ウクライナ側やヨーロッパ諸国が激しく反発し、停戦合意そのものができなくなる可能性があることです。

またNATOへの加盟を認めない場合、ロシアとウクライナの間の安全保障をどう確保するかという問題が出てきます。イギリスやフランスなどは、ヨーロッパ主導の多国籍軍の創設を主張していますが、ロシアは、ヨーロッパ諸国を敵国とみなして、これに真っ向から反対しています。

この問題については、将来的には国連PKOの停戦ラインへの派遣も議論される可能性があり、実際にイタリア政府が提案したと報じられています。国連PKO部隊であれば、その派遣や内容を決める国連安全保障理事会においてロシアは拒否権を持っており、受け入れやすい可能性はあります。また中国やインドなども入った国連PKO部隊の方が中立と受け取る可能性もあります。

このあたり、領土や停戦後の安全保障についてアメリカが提示する和平案の内容を見ながら、ウクライナ政府は、最終的にアメリカの支援なしにヨーロッパの支援だけで戦争を継続するのか。それともいったん停戦を受け入れるのか、難しい判断を余儀なくされると思います。

いずれにせよ今年の前半は、ウクライナ戦争の終結をめぐり大きな山場を迎えることになります。

ガザ紛争:トランプ提案と停戦合意の破綻

トランプ大統領は、2025年2月5日、イスラエルのネタニヤフ首相との会談後、アメリカがガザ地区を長期間所有して再建し、ガザ住民を別の場所に移住させる提案をしました。これにパレスチナやアラブ諸国からは強い反発が起きました。

この提案も、ウクライナ戦争の和平案と同様、「他の国に侵攻して自国の領土にしてはいけない」という基本的なルールを、トランプ大統領が顧みないことが象徴的に表れていると思います。

1967年の第三次中東戦争でイスラエルが占領したヨルダン川西岸とガザ地区からは、イスラエルが撤退するよう求める決議を国連安保理が全会一致で採択しています。そこからイスラエルが撤退して新たなパレスチナ国家を作るというのが、いわゆる2国家解決で、アメリカも30年、この方法を支持してきました。

今回、ガザに住む220万人ものパレスチナ人を、エジプトやヨルダンなど他の国に移住させて、ガザをアメリカが長期にわたって所有するというのは、これまでの米国のパレスチナ政策を根本から変えるものです。

これも「既存の国境線や民族自決という理念は気にしない」という点は同じで、グリーンランドやパナマ運河、カナダをアメリカが領有すべきだという主張にも似ており、トランプ大統領の中ではある意味、一貫しているのかも知れません。

2025年1月に入り、トランプ大統領やその特使がネタニヤフ首相に「自分の就任前にガザの停戦をするよう」強く求めました。それを受けて1月19日に一度停戦が実現し、戦闘が止まり、一日600台以上のトラックが人道支援物資を載せてガザに入るようになりました。それまで一日10台ほどしか搬入できず、飢餓も広がり、人道状況は完全に破綻していました。

ネタニヤフ政権は今年に入るまで、バイデン政権の停戦圧力は適宜かわして、より親イスラエルと見られるトランプ大統領の出現を待つ思惑があったと思います。ところが、そのトランプ大統領に「自分が就任する前の停戦」を強く求められて、もう抵抗できず、一度は停戦に踏み切りました。

停戦破綻:ガザから撤退できないイスラエル

2025年1月19日に始まったガザの停戦は第一段階で、ハマスなどに拘束されているイスラエル人33人の解放とイスラエルに拘束されている2千人近くのパレスチナ人の解放が順次行われ、人道支援も再開され、一日600台ものトラックがガザに入れるようになりました。

そして、第一段階については、ハマス側もイスラエル側もほぼ、当初の合意内容を実施しました。

しかし3月初旬に入る予定だった「第二段階」にどうしても入れず、戦闘が再開されてしまったのです(4月2日現在)。

その理由は、第二段階で予定されている、「イスラエル軍のガザからの撤退」に、どうしてもネタニヤフ政権が踏み切れないことにあります。

第二段階では、ハマスが残りの人質を全て解放し、その代わりに、イスラエル軍がガザから撤退することで、1月19日の段階では合意されていました。しかし、ネタニヤフ政権で連立を組む極右政党(スモトリッチ財務相が率いる「宗教シオニズム」)は、「ガザからイスラエル軍が撤退するなら、連立政権を離脱」すると、一貫して主張していました。

1月19日に停戦が発効した段階で、ベングビール国家安全保障相と彼の率いる極右政党は、停戦に抗議して、既に連立政権を離脱しました。これにあわせ、スモトリッチ財務相とその極右政党までもが連立政権を離脱すれば、ネタニヤフ政権は少数与党に転落し、3月末が期限の国家予算も承認できず、連立政権が崩壊する可能性が大でした。

もし政権崩壊後、総選挙に打って負けてしまった場合、ネタニヤフ首相は、野党に転落します。そうなれば、既にイスラエル検察に汚職など三つの事由で起訴されているネタニヤフ氏は逮捕されるリスクがあります。

これが、ネタニヤフ首相が、第二段階、つまり「ガザからのイスラエル軍の撤退」に踏み切れない、非常に大きな要因になっていると見られます。

ガザへの人道支援の停止と戦闘再開

実際、3月初頭に第二段階に入ると1月の停戦発効時には合意されていましたが、その後、イスラエル側は第一段階を延長して、ガザからのイスラエル軍の撤退は実施せず、イスラエル人の人質のみ解放するよう、ハマス側に求めました。

これをハマス側が拒否したところ、3月2日以降、イスラエルは、ガザに対する全ての支援物資の搬入をストップさせました。

そして3月18日には、イスラエル側が、再びガザへの空爆や地上戦を再開したのです。既に3月18日からの戦闘再開時からだけで、920人以上のガザ住民が軍事攻撃で死亡し、2千人以上が負傷したと報道されています。

2023年10月からのガザでの死者は、5万人とも6万人とも推定されています。またイスラエル側も2023年10月のハマスの越境攻撃で1200人以上が犠牲になっています。

しかしこのガザでの戦闘再開と、圧倒的な人道破綻が進む中、トランプ大統領は、イスラエル政府に対して、一刻も早く停戦し、合意した「第二段階」に入るよう、真剣に説得している気配が今のところありません。むしろ、イスラエル側が提案する第一段階の延長(つまりイスラエル軍のガザからの撤退がない形での人質解放)を、アメリカもイスラエルと一緒に要求しています(4月2日現在)。

これを見ると、トランプ大統領に、どこまで本当に「平和を作ろうとする意志」があるのか、疑問を持たざるを得ない状況になっています。このことは、ガザ紛争だけでなく、ウクライナ戦争に関するトランプ政権の和平調停への真意についても、国際社会に疑いを持たせる可能性があります。

停戦に向けた日本の役割は

トランプ政権のガザ紛争への態度が曖昧な中、日本としては、周辺国と共に、とにかくガザ停戦を復活させ、パレスチナの人たちの命を繋ぎ、イスラエルの人質も解放されることが、中東の平和にとっても、そして人道的な見地からも最善であると訴え続けるべきと思います。

ガザへの激しい攻撃に加え、人道支援が全てストップしており、このままでは水も、食料も、薬品も、燃料も尽きてしまう状況であり、飢餓や病気も恐ろしい勢いで広がっています。

このような事態が続くことは、イスラエルの長期的な安全保障にとっても極めて深刻な影響がでるはずです。ですからとにかく早く停戦が実現するよう、仲介しているカタールやエジプト、そしてアラブ諸国とも連携しながら、イスラエルやアメリカに働きかけ続けることが必須だと思います。

ガザ復興案と国際停戦監視団の可能性

まだ停戦が維持されていた2025年3月4日、エジプトが主催して「アラブ連盟首脳会議」が開催され、ガザの復興案が提示されました。計530億ドル(約8兆円)の復興案は、ガザに、「パレスチナ暫定政府」(PA)の権限の下、「テクノクラート委員会」を新たに設置し、その委員会がガザの復業や統治を担うとされています。

そして約5年の間に、60万戸の住宅を新たに建設し、全てのガザ住民の住む場所を確保し、工業地帯や、商業用港湾施設、空港なども再建する案になっています。

PAの権限の下に新たに「テクノクラート委員会」を作ることについては、私が2024年10月から11月にかけてヨルダンで調査を行った際、在ヨルダン・パレスチナ次席大使が、「2024年7月にエジプトのカイロで、PAの権限の下、PAとハマスによる暫定委員会の設置に向けた会議が2回開かれ、私も出席した」という話と一致します。

エジプトとしては、「ハマスがそのままガザを統治することが難しいが、ハマスなしでも難しい」と多くの専門家が指摘する中、将来のガザ統治について、現実的な解決策を模索していると思われます。

また3月4日の首脳会議では、エジプトとヨルダンが連名で、ガザの復興が終わるまでの間、「国連PKO部隊を、停戦監視部隊としてガザに派遣すること」を検討するよう、国連安保理に正式に依頼しました。

「国連PKO部隊のガザへの派遣」も、ガザからイスラエル軍が撤退した後、一時的に、パレスチナとイスラエルの双方に安全確保するために必要ではないかと、私も2024年1月に放送されたNHKおはよう日本のインタビューや、10月8日に朝日新聞で掲載されたインタビューなどでも重ねて主張し、ヨルダンでの講演や政府幹部との懇談でもその案について議論を続けてきました。

バイデン政権は、「アラブ連盟軍」の派遣などを主張していましたが、アラブの国だけで多国籍軍を編成するのは大変なことです。既に設置の方法や分担金の割り当てルールなども確立されている国連PKOの派遣の方が現実性があると、私は早くから考えていました。

ただこうした「国連PKOの派遣」も「ガザ復興案」も、イスラエル政府はすぐに反対の声明を出しました。そして、トランプ大統領が提案した、ガザ住民を全員、他の地域に移住させるという案に、今も固執していると言われます。

しかし、この「トランプ提案」の実現は非常に難しいのが現実です。昨年秋にヨルダンで、数多くの政府高官や専門家、ヨルダンにいるエジプトやカタール、パレスチナの代表者などと議論する機会がありましたが、皆さん、「イスラエルの極右政権がガザの人たちを全員追い出そうとしているが、それはいわゆる『民族浄化』であり、ヨルダンやエジプトなどアラブ諸国は絶対に受け入れられない」と強く主張されていました。

またパレスチナの人たちも、どんなに破壊されていてもガザで尊厳を持って生きていきたいという人たちが多く、それを強制移住させることも、また周辺国にガザの住民受け入れを強要することも難しいと思われます。

停戦後の復興での日本の役割

まずは紛争当事者を説得して、一刻も早い停戦を実現し、人道支援を再開することが重要ですが、その後、長期的には、ガザの人たちの「自立と安定」を支援することが、持続的な平和を作るためにも重要になります。

たとえば日本はこれまで、ヨルダン川西岸とヨルダンを繋ぎ、パレスチナ人の自立を促進する「平和と繁栄の回廊」事業を20年近くにわたって推進してきました。

日本とヨルダン、イスラエルとパレスチナ暫定自治政府(PA)が協力して、ヨルダン川西岸で生産した商品を、ヨルダンや、ヨルダン川西岸、イスラエルなどで販売する事業を実施しており、現在もそれは続いています。

こうした実績と信頼を活かして、ヨルダンやエジプトなどとも協力しながら、ガザの住民の自立を支援していく、日本ならではの事業も検討可能だと思います。例えば、ガザの近くのエジプト側に工業団地やショッピングセンターを作り、ガザの住民が日帰りで通える場所を作るなども一つの案だと思います。

実際、在ヨルダンのパレスチナ大使は、「2022年頃まで、ガザの近くのエジプト領に、工業団地を作ってガザの住民も働けるようにする案はずっと議論されていた」と話していました。その意味では、全くの机上の空論ではないと考えています。

(ヨルダンでの詳しい現地調査の内容については、2025年1月発行の雑誌『外交』に掲載された拙論「ヨルダンでガザ紛争と平和構築を探る」をご参照。)

日本は「新興国・発展途上国」の「自立と安定」に向けた支援を

日本は石油の95%以上を中東に依存しており、中東の平和と安定は日本企業のビジネスや私たちの暮らしにも直結します。ガザやウクライナも含め、戦争が終わった後の復興支援は日本の得意分野でもあります。

トランプ政権が、「世界の基本的なルール」を顧みない中、こうした戦争で破壊された地域での復興支援も含め、いわゆる「新興国・発展途上国」において日本が行ってきた「自立と安定」に向けた誠実な支援は、世界中で評価が高く、日本に対する尊敬にも繋がっています。

制度や価値観を押し付けるのではなく、こうした戦争や災害、貧困などで困っている人たちが、まずは自分の力で生きていける「自立」と、平和に生きていくことができる「安定」に向けた支援を維持・拡大することは、日本の味方を世界中で増やしていくことにもなります。

そして、日本の味方を増やしていくことは、(味方の多い国を攻めこむことは当然難しく)、日本自体を守る力を高めることにもなると私は考えています。

このように、戦後のガザやウクライナの復興支援も含め、新興国・発展途上国の「自立と安定」に向けた支援を維持・拡大し、世界中に日本の味方を増やしていくことこそが、トランプ時代に入って世界の基本的なルールが変わっていく中、日本の重要な国家方針になると私は考えています。